事務所機能の立地に関する実証的および理論的解明を目的とする本研究では、大都市の中心部に集積する事務所ビルや、そこに入居して事務的業務を行う経済活動の実態について、まず調査・研究を行った。本年度は、名古屋市を対象地域として選び、2つの研究論文のかたちで成果をまとめることができた。日本地理学会の学会誌として投稿した論文の内容は、同学会で口頭発表したものをベースとしているが、名古屋市都心部における事務所ビルの立地過程と集積状況、それに事務的業務の集積パターンに関するものである。同市の都心部では、名古屋駅前と栄・錦地区を核として、同心円状に事務所ビルや業務活動が分布しており、その分布は地価や交通網のありかたと密接な関係があることが分った。 一方、人文地理学会の学会誌として投稿した2番目の論文では、産業構造の転換が事業所の地域的分布に対してどのような影響を与えたかを論じた。とくに、第3次産業をはじめとする事務所機能の役割が高まったことを指摘し、その分布の推移過程を明らかにした。このほか、日本カナダ学会では、カナダの西部諸都市における事務所機能の集積状況について報告を行った。ヴァンクーヴァー、カルガリー、エドモントンを対象とするこの報告では、経済発展の動向に応じて事務所ビルがどのように建設され現在に至ったかを中心に論じた。 以上のように、本年度の研究では、大都市における事務所機能の立地・集積に重点を置き、その実態を中心に調査、研究ならびに報告を行った。共通していえることは、都市の違いを超えて、事務所機能が脱工業化社会の中で重要性を高めていることである。とくに、都心の経済機能として、事務所機能はかなり多くの就業者に対して働く場所を提供している。土地利用、交通などと関係が深く、現代の大都市を理解するうえで、事務所機能が欠かせない存在であることが、あらためて浮彫にされた。
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