本研究は、地下水の水質の形成機構を、流動に伴う水質変化の過程に注目して明らかにすることを目的としている。すなわち、地下水の滞留時間(地下水と地層との接触時間)が長くなることに伴う水質変化の過程を、溶存イオン濃度の増加・減少と組成の変化から考察し、水質進化の進んだ地下水が形成されていく過程を明らかにしようとするものである。具体的には、地表水の伏没浸透による初期条件としての不圧地下水の水質の決定に始まり、涵養地域からの流動に伴う被圧地下水の水質変化を、溶存イオンの置換と溶出・吸着との関連から考察した。調査対象地域としては伊勢平野北部の第三紀丘陵部を選び、自噴井(深度40m〜180m)から得られた被圧地下水の水温・水質の季節変化を明らかにし、地下水涵養域の不圧地下水との比較検討を行った。水質については、溶存成分の主要7項目の分析に加えて、トリチウム濃度の測定も実施し、地下水の滞留時間の算定を試みた。臨海部における被圧地下水の滞留時間の最大値は約60年と考えられ、これに対し丘陵部の被圧地下水はトリチウム濃度の高いものが多く、循環速度の比較的速いことが特徴である。被圧地下水中の全陰イオンに占める重炭酸イオンの割合と自噴井の深度との関係について考察した結果、比の値は深度とともに大きくなる傾向にあることが明らかとなった。このことから、深度の大きな帯水層における地下水がより長い滞留時間を持つことが説明され、水質組成は滞留時間と定性的に知る上で良い指標となることが判明した。さらに、調査対象地域を涵養域からの流動方向に従って地域区分し、各々の区域に含まれる地下水の水質組成の平均値を算出したところ、涵養域からの距離がしだいに大きくなるにつれ、地下水の水質から判断される滞留時間が長くなっていく過程が明らかとなった。本地域では、被圧地下水の涵養に丘陵部の背斜軸の存在が大きな役割を持っていることも特徴である。
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