酵母動原体(CEN)と自律複製能を有する配列(ARS)を持つプラスミドは、ミニ染色体として酵母内で比較的安定に存在しうる。本研究では、温度感受性変異株のうち、中間温度でミニ染色体が不安定になるものを選択し、その表現形を調べると共に、遺伝子産物が複製や分配にどのような役割りを果しているかを明らかにすることを目的としている。アデニン要求性株が赤色コロニ-を形成することを利用して、ミニ染色体の安定性を形質転換体コロニ-の色で識別する方法を、すでに単離されているいくつかのts変異株に応用した。中間温度にして、白いセクタ-が出る変異株を2種、白の他の赤いセクタ-を生ずるもの1種を新たにスクリ-ニングし、前者は複製の、後者は分配のメカニズムに欠損を生じていると思われる。今後は遺伝子をクロ-ニングして解析する予定である。細胞周期G1期よりS期への移行に欠損のあるgst1変異株もミニ染色体を不安定にすることが判っている。遺伝子産物は、分子量77Kで、EFIαとのホモロジ-が高いタンパクである。さらにオムニポテントなどのサプレッサ-と同一遺伝子であることが判った。このタンパクの機能を、特に細胞周期との関連で研究することが今後の課題である。この酵母GST1DNAを用いてヒト培養細胞のcDNAライブラリ-より相同遺伝子を単離した。酵母に比べ、分子量は56Kと小さいが、酵母gst1^<ts>を部分的に相補できたので、機能的にも似た働きをしていると考えられる。血清で刺激して細胞周期を同調化させ、mRNAの量を経時的に追うと、S期に入る直前に発現量が最大になることが判った。酵母GST1が、G1期よりS期への移行に欠損のある細胞周期変異株であることを考えあわせると興味深い。
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