本研究所では集積素子ないし多機能素子として生体内で機能を発揮している脂肪酸合成酵素とα2-マクログロブリンの活性発現におけるタンパク質の動きをモデルにして将来の分子集積素子の設計と製作の原理において主要な考察因子となる動作原理を抽出し、集積素子の設計の基礎とするものである。特に本研究では研究の展開ともに、動作素子の動きと溶媒である水の間の流体力学的カップリングを研究した。方法は酵素活性が基質濃度に依存しない状態で溶媒の粘性と活性の関係を測定し、まずグリセロ-ルを増粘性物質として水に添加して活性を測定した場合、活性は溶媒粘度の-1乗に比例して変化した。この事は本酵素の活性発現における律速段階の分子レベルの動きが溶媒分子と流体力学的カップリングをしていることを示す。さらに増粘性物質の分子量を大きくして巨視的な粘性と微視的な粘性の違いを大きくすると酵素活性は次第に巨視的な粘性には依存しなくなる。この関係を定量的に扱うと酵素のどのような大きさの部分が律速段階の科学反応にカップルとして動いているかを推定することができることがわかった。このこと自体はタンパク質の動的揺らぎ構造と機能の関係を描き出す上で非常に有益な情報である。またこの方法を完成させることにより動く部分の大きさや動きの早さが推定できるようになることはタンハク質物理化学の分野で画期的な問題提起となる。α2-マクログロブリンにおける巨大なサブユニットの再配列運動においてもその反応の活性化エネルギ-の大半は溶媒である水の粘性に関わるものであることが示唆された。この結果を集積素子の設計の立場から眺めると、分子レベルでの各要素素子の働きが機械的な動きを伴う酵素反応のようなものの時、溶媒粘性とのカップリングの結果システム全体の動きが流体力学的制限を受け、応答速度がかなり遅くなる。応答速度の早い素子を作るためにはタンパク質の動きを伴わない反応機構を利用しなくてはならない。この観点から人工的にタンパク質を組み合わせた電子伝達回路を設計し機能させる研究を始めている。
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