昨年度開発したクライオスタットの観測部を改良し、試料室の窓と蛍光X線の検出用窓を格段に大きくした。これにより、X線のアラインメントが容易になるとともに、効率の良い測定が可能になった。急速凍結した試料の調整は、実験を繰り返すことによりノウハウを蓄積し、再現性のある方法を確立した。さらに、凍結試料のモニタ-システムの光学系を改良し、得られるスペクトルの質を改良した。この装置により、以下のような測定を行った。 反応中間体の安定性を調べるため、西洋ワサビペルオキシダ-ゼの複合体IIを急速凍結し、クライオスタット中でその光学的な反射スペクトルを観測した。液体窒素温度に試料を保つと、過剰な過酸化水素の存在下でも複合体IIは長時間安定で複合体IIIへ移行しなかった。以前の経験では、-160℃の温度で複合体IIは不安定であったので、液体窒素温度に試料を保つことの重要性が確認された。同時に、このモニタ-システムがX線測定中の試料の安定性や放射線損傷を評価する上で有効であることも確かめられた。 次に放射光を用いて、シアンを結合したメトミオグロビンを還元する反応について急速凍結を行い、鉄吸収端付近のX線吸収スペクトルを測定した。この反応は、反応途中に中間体が出現する典型的な例である。急速凍結した試料のスペクトルは、室温で液体状態の同じ試料のものと同程度に良質であった。反応直後(10ms)と反応終了後に急速凍結した試料(それぞれA、B)は、反応の進行に由来するスペクトルの特徴を示した。すなわち、BはAに比べ吸収端位置が低エネルギ-側に移動し、軸配位子の結合に由来する吸収帯が消失していた。これは、反応に伴って鉄原子の還元され、シアン配位子が解離することに対応していると解釈される。
|