1.対称型NMR試料管の開発:磁場解析をもとに対称型のNMR試料管を提唱した。まずシム調整用として上下に溶媒槽のあるミクロ試料管を試作し、実用上のいろいろな問題点を摘出した。そして磁場調整したガラス材質の弱点を克服するために、熱処理法などの製法に工夫を積み重ね、実用化に成功した。今後他の溶媒に対応できる簡易対称型ミクロ試料管の開発と実用化が課題として残っている。 2.11パルス法による選択励起法の開発:軽水溶液を選択励起法で測定する方法は非常に沢山の方法が提唱されているが、いずれも一長一短があり、実際には非常に測定が難しいものとされている。申請者はスペクトルの位相歪みに着目し、一番測定が簡単で位相歪みの少ない、11パルス法の改良を試みた。そして非対称11パルスの1次結合法を考案し、ベ-スラインの歪みを消去するだけでなく、1331パルスに匹敵する信号抑圧比を得ることに成功した。 3.非選択的完全飽和法の開発:他核のNMR測定の目的に幾つかの方法が知られているが、いずれも数%の信号残りが除去できなかった。そこでprogressive safuration pulse法とWaugh pulse法を同時に適用する方法を考察し、信号の完全飽和に成功した。 4.常磁性イオン存在下における新しい緩和機構の存在:軽水中の常磁性イオンは、軽水の核スピンを飽和すると、電子スピンの占有率が変化すると思われる実験結果を得た。これは従来知られていなかった新しい緩和機構である。 5.分子表面残基の選択的測定法の開発:常磁性物質存在下、非選択的飽和後の回復過程を測定し、近傍に存在する緩和速度増大部分を測定することで、常磁性物質に接触し得る分子表面残基の選択的測定に成功した。今後ヘム蛋白質のNMRスペクトルの帰属に応用する予定である。
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