本研究は、河川環境整備の方針決定に重要な要素となる河川環境イメージの地域性を明らかにすることを目的として、河川を軸とした都市空間の評価特性と空間認知特性を抽出し、さらに両者の関連性を見いだそうとするものである。本研究で対象として取り上げたのは、東京都の典型的な都市河川と言われる神田川と石神井川である。神田川においては、江戸時代より現在に至る河川空間の変遷を絵画・写真・文献より概観し、河川の物理的空間の構成要素の一つで、都市化と治水事業によって著しく変化した河川の立体的な幾何構造に注目し、その透視形態としての評価を実験心理学的アプローチによって明らかにした。その結果、川幅10m程度の都市中小河川の好ましい透視形態として、河岸幅Kと建物高さtとの比K/t=0.75かつ深さd=3m程度が抽出された。また、石神井川においては、歴史・文化や自然環境の面で大きく異なる中流部の練馬区早宮・桜台地区と下流部の北区滝野川地区を対象として取り上げ、住民に対する2通りの面接調査を行ない、認知心理学的アプローチによって、心理的空間の評価構造と空間認知特性を明らかにするとともに、両者の関連性を検討した。環境評価に関しては、認知心理学的見地からパーソナルコンストラクト理論に基づく3層の認知過程を表すモデルを考案し、各地区における河川環境の評価構造の違いを明らかにした。空間認知に関しては3段階のスケールを考え、各スケールにおける認知度と対象地区や被験者の属性との関係を明らかにし、川の線形や在住年数、川からの距離が認知度と強い関係にあることが示された。また、都市河川空間の評価を各階層に割り当てられたものの中から、各地区での特徴的なものを取り上げ、空間認知度との関連性を検討し、各地区で『評価』に相当する項目では、いずれも空間認知度は低い人の方が高い評価を与える割合が大きいことが示された。
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