不純物と母体原子を含む単位胞を無限に並べたスーパーセル法と密度汎関数法に立脚したノルム保存型擬ポテンシャル法とによって、結晶構造や対称性を仮定することなく電子状態や結晶構造を非経験的にきめる計算方法の開発を行った。新しく開発したスーパーセル法のテストケースとして、p型シリコンの水素による不動態化(Hydrogen Passivation)の問題を選んだ。ボロン(B)などのアクセプタをドープしたp型シリコンでは、不純物として侵入した水素(H)によってアクセプタの電気的活性が失われる。これらの機構を解明するために、スーパーセルの中に母体のSi、アクセプタであるB、そしてH不純物をパラパラとばらまいておき、第一原理からヘルマンファインマンの力を計算する。計算された力にもとづいて各構成原子を動かしながら、各原子に働く力がゼロになるように電子状態と構成原子の構造配置を決定した。その結果、H原子はSiと置換型アクセプタ不純物であるB原子との結合中心位置に入り、最近接のSiとBを大きく格子緩和して、Si-H-Bから成る3中心結合をつくる。その結果として、Bによるアクセプタ準位は、H原子の深いポテンシャルによって価電子帯中に引き込まれてその電気的活性を失う。このような経験的パラメータをいっさい含まない理論計算によって、水素によるp型シリコンの不動態化の機構が解明された。今後の計画では、p型ZnSeをつくる場合に問題になっているLiをアクセプタとして選び、Zn置換位置周辺でのLiの移動エネルギーと構造安定性を計算し、Liのアクセプタとしての不安定性の起源を解明する。
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