1 我々は、既知のホトクロミック化合物であるフルギドを改良して、光記録材料として用いることのできる有機化合物を合成することを目的として研究を行っている。これまでに、Hellerらによって合成されたフリルフルギド、2-[1-(2、5-ジメチル-3-フリル)-アルキリデン]-3-イソプロピリデン無水コハク酸(1)のフリルアルキリデン基の上の置換基(R^1)をメチル基からイソプロピル基に変えることで、ホトクロミズムには不要なE/Z異性化を抑え、かつ環化着色の量子収率をフルギドとしては最大の0.62まで増大させることに成功した。本年度は、1)開環消色の量子収率を同様に増大させること、2)溶媒、ポリマーなどの媒体がフルギドのホトクロミズムに及ぼす影響を調べること、3)環化着色体の吸収極大の波長を長波長化することを目指した。 2 1)環化着色体の内部の立体反発を大きくし、開環しやすくすることを試みた。その結果、1のイソプロピリデン基をアダマンチリデン基にし、さらにR^1をイソプロピル基にしたものは、環化の量子収率は0.42(1、R^1=Meの約2倍)と大きく、かつ開環消色の量子収率は0.24(1、R^1=Meの約5倍)と高性能であることがわかった。2)フリルフルギド(1、R^1=Me)のホトクロミズムを種々の溶媒中、ポリマーフイルム中で調べた。その結果、以下のことがわかった。(1)溶媒中では、誘電率の増大と粘度の減少に伴ってE/Z異性化の量子収率が増大し、誘電率の増大に伴って開環の量子収率が減少する。(2)ポリマー中、開環の量子収率は誘電率の増大に伴って減少する。(3)環化及びE/Z異性化の量子収率はポリマー中より溶媒中の方が大きいが、開環境の量子収率はポリマー中の方が大きい。3)フリル基のかわりに1、2-ジメチル-5-メトキシインドリル基を持つフルギドを合成した。このものは着色体の吸収極大が622nmにあり、吸収末端は810nmまで延びていて、半導体レーザーの波長780nmで吸収を持つことがわかった。
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