1.スピロピランのフォトクロミズムに対する媒体の効果……一般にスピロピラン(SP)から発生するメロシアニン(MC)の吸収スペクトルとMCからSPへの異性化速度は媒体の極性に強く依存しており、MCのλmaxに対応する電子遷移エネルギーと異性化の一次反応定数との間に直線関係が成立する。しかしミセル等の特殊な媒体中ではこのような直線関係からずれる場合がしばしば観測されるが、これは、極性以外の因子が作用していることを示唆するものである。このような研究はMCの安定化に作用する因子を明らかにする点で重要である。そこで種々の構造的な特徴を持つSPを合成し、各種ミセル中での挙動を検討した。その結果、一般に非常に弱い発色しか示さない3'-メチル体はCTABのようなカチオン性ミセル溶液中で非常に安定な強い発色を示すこと、又水溶性SPの逆フォトクロミズムはCTAB/H_2O/CHCL_3のような逆ミセル中でその熱発色速度が非常に減少するなど興味ある挙動を示すことを明らかにした。これらの結果はミセルの中では極性だけでなくその局部粘度が重要な役割を果たしていることを示しており、粘度はMCを安定化する要因として重要であることを示すことができた。 2.ナフトピランのフォトクロミズム……ナフトピランは光照射下にキノイド型に開環し着色するが、この着色形は一般にMCより熱的に安定であり、記録材料として優れていると考えられる。そこでナフチル基にピラン環を2個導入した一連の化合物を合成し、そのフォトクロミック特性を検討した。その結果、1-異性体のみフォトクロミズムを示すこと、又ビスピラン系ではその置換位置に依存して発色特性は興味ある変化を示した。特に後者の系では光照射にり2個のピラン環を段階的に開環させることができれば記録材料として興味深い性質を賦与できることになるので、この点に関して詳細に検討した。
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