1.ブレオマイシンの巧妙な鉄配位・酸素活性化部位を基礎にして、新しい非へム鉄型の酸素活性化機能を有する配位子として、科学的に不安定なピリミジン核の代りに安定なピリジン核をもった分子を設計・合成した。得られた化合物と鉄との錯体をESR、電子スペクトルなどによって特徴づけたのち、分子状酸素の活性化能をブレオマイシンと比較したところ、約20%の活性であった。 2.合成配位子とブレオマイシンとの鉄配位子としての性状や差異を詳細に検討するため、4-置換(アミノ、メトキシ、クロロ)ピリジン環のπ電子状態をヒュッケル法に基づいて計算し、窒素原子上の電子密度と酸素活性化能との相関性について定量的に考案し、4-メトキシピリジン環がもっとも効果的であることがわかった。また、ヒドロキシヒスチジンへのかさ高いt-ブチル基の導入についても検討した結果、4-メトキシ基およびt-ブチル基の導入は酸素活性化能を大幅に上昇させ、ほとんどブレオマイシンに匹敵することが明らかになった。 3.ブレオマイシン-鉄錯体と種々の酸化剤(ヨードソベンゼン、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシドなど)によって生成する活性型ブレオマイシンはオレフィンのエポキシ化や芳香環の水酸化を触媒することがわかったので、合成配位子-鉄錯体と酸化剤とによる酸化反応を比較・検討した。その結果、新たに開発した非ヘム鉄錯体は酸化触媒としても極めて有用であり、特にオレフィンの不斉エポキシ化がはじめて認められた。さらに、本非ヘム鉄錯体は、過酸化水素の存在下、強いDNA鎖切断活性を示し、酸化的にDNAを分解していることが予想された。
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