音声の本来持っている個人差や人の声らしさをよく表現するためには、現実の発声機構と声の放射機構に近い音声生成モデルを構築し、それに基づく分析法を実現する必要がある。本研究はそのようなモデルの一つとして、声帯振動に及ぼす声門下部(気管・肺)と上部(声道)の影響を考えた音声合成と分析の計算機シミュレーションを行なう。一方、実際の音声に対しては音圧波形ばかりでなく、微小加速度計で顔面その他の振動を直接測定し、シミュレーションと比較する。 63年度は声道壁内音圧と声道壁の振動に関する波動方程式を用いて、声帯・声道・声道壁振動モデルに基づく音声合成プログラムを開発した。このモデルでは声道及び鼻腔内の音圧によって声道と鼻腔の隔壁(口蓋)が振動し、その振動によって生ずる音圧が鼻腔および声道内の音圧に相互に影響を及ぼすことを考慮した。また、振動実測に関しては咽頭付近および頬の振動を直接測定した。次に本年度の研究成果を列記する。 1.声道壁内音圧と声道壁の振動に関する波動方程式を用いて、声帯・声道・声道壁振動モデルによる音声合成プログラムの開発した。 2.上記プログラムを用いて、口唇から放射される音声と声道壁面から放射される音声及び鼻孔から放射される音声を、軟口蓋の開閉、口蓋の振動により生ずる音の漏れの割合を変えて合成し、口唇及び鼻孔から放射されるパワーからこの現象による影響を確認した。 3.実際の発声における声道壁の振動を測定し、破裂子音等において破裂時点の前後で声道が変形することを確認した。 今後は、発声によって起因する音声波形と、頬・鼻・咽頭その他の振動並びに音響放射を多元的に観測する。また、声道壁振動による鼻腔・口腔結合による鼻音化現象及び声門開口期間と閉鎖区間における声帯波形と音声波形を気管・声帯・声道壁振動モデルにより検討する。
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