1.^<31>P-NMR飽和移動法を用いてカエル骨格筋のクレアチンキナーゼ(CPK)反応のフラックスを求めると3.6mM/Sとなった。この値は静止筋の酸素消費量から求めたATPの回転速度よりも大きく、CPK反応は細胞内で平衡であり、その平衡定数からADP濃度を計算すると33uMとなった。 2.^<31>P-NMRパルス磁場勾配法を用いてカエル骨格筋におけるATPの拡散係数を測定すると、分子量の小さいクレアチンリン酸(PCr)の方が1.4倍大きい。従って、細胞内でのエネルギー輸送には拡散速度の大きいPCrの方が有利である。 3.^<31>P-NMR連続スペクトル走査法を開発し筋線維に沿ったリン化合物の濃度およびCPK反応のフラックスを求めるとほぼ一定であった。 4.以上の結果からPCrエネルギー・シャトル説について検討した。 (1)CPK反応のフラックスとその反応の基質の濃度から、基質分子がCPK反応に至るまでの時間を求めると、最も濃度の低いADP分子が最も短く9msとなる。酵素の反応時間は報告されている最大反応速度より見積ると1msとなるので、ADP分子の拡散時間は8msとなる。 (2)ADPの拡散係数をATPと同じであるとすると、ADP分子がCPK反応に至るまでの間に拡散できる距離は1.8μmとなる。脳や平滑筋ならびに心臓についても報告されているCPK反応のフラックスからADP分子の拡散距離を求めると、2〜4μmとなる。筋原線維の太さは1μmであるから、筋原線維とミトコンドリアとが交互に配列する心筋細胞などでは、ADP分子はCPK反応を介することなく両部位に到達できる。 (3)従って、PCrによるエネルギー・シャトル説は必要不可欠ではない。しかし、筋収縮などでATPが消費されても直ちにCPK反応によってATP濃度は一定に保たれることから、実際には筋細胞内エネルギー輸送は拡散係数の大きいPCrによって行われていると考えられる。
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