生物界に存在するゲノムDNAのGC含量は、広い範囲(25%〜75%)に分布している。しかし進化の過程における、この大きなGC含量の変動の要因については現在でも未知のままである。我々はこの要因の一つとして考えられる大腸菌ミューテーター(mutT)遺伝子の解析を進めてきた。というのは、このミューテーターは、A:T→C:Gへの一方向のトランスバージョン型変異のみを上昇させるからである。実際、mutTミューテーターの長時間培養により、染色体のGC含量が増加することが確かめられている。我々は、このMutTタンパク質の酵素活性を同定することから、A:T→C:Gへの特異的なトランスバージョン変異生成の分子レベルでの機構を知ることができると考えた。そのため、mutT遺伝子をクローニングし、その遺伝子構造を明らかにするとともに、MutTタンパク質を過剰生産し、精製を行い、その酵素試料を用いて以下の生化学的解析を行った。 上記トランスバージョン変異生成の中間体としては、dA:dGミスマッチ塩基対が予想される。実際、立体異性体のanti型dAMPとsyn型dGMPは、ワトソン-クリック型塩基対合を形成しうるとするモデルが提出されている。このミスマッチをDNAポリメラーゼIII酵素が形成しうるか否かを調べた。テンプレートにpoly(dA)、プライマーにpoly(dT)、基質としてdGTPのみを用いると、低頻度ながらdGMPの取り込みが認められた。驚いたことに、この取り込みが、精製したMutTタンパク質の添加によって完全に抑制された。さらにMutTタンパク質が、dGTPase活性を有することも見出した。現在、MutTタンパク質が、dGTPの立体構造(anti型とsyn型)を認識し、syn型を特異的に分解していると考えており、今後その検証を行いたい。
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