分子進化による遺伝子重複について、グロビン遺伝子を対象に3つの面から検討を加えた。1)重複遺伝子の不活化の機構を明らかにするために、δグロビン遺伝子を対象に解析を行った。新世界猿類であるワタボウシタマリンのδ及びβグロビン遺伝子を単離しその塩基配列を決定した。その結果、ミドリザル(旧世界猿類)の解析により、不活化の原因として示唆されていた第2イントロン内の塩基置換が同様に認められた。ワタボウシタマリンではδグロビン遺伝子が発現していることが知られている。これらの事実は、従来指摘されていた転写やフレームシフトを含めた変異以外の全く新しい機構が、旧世界猿類のδグロビン遺伝子の不活化に関与していることを示しており、現在、ミドリザルに類縁のパタスマンキーについての解析と、遺伝子の発現面での解析を併せて行っている。2)脊椎動物におけるグロビン遺伝子重複の初期像を推測するうえで有用と考えられる魚類のグロビン遺伝子について解析を行った。既に単離しているコイのαグロビンのcDNAをプローブとしてクローンを単離し解析したところ、ヒト胚生期型のζグロビン遺伝子とホモロジーが高い遺伝子であることがわかった。現在他のクローンについても解析を進め、コイにおけるグロビン遺伝子の全貌を明らかにしたいと考えている。またシーラカンスのグロビン遺伝子についても上記のプローブとのクロスハイブリダイゼーションにより単離を試みているが、現在のところまだクローンは得られていない。3)重複遺伝子の同時進化の機構解明のため、RFLPに基づくハプロタイプごとにγグロビン遺伝子をクローン化し塩基配列を決定した。その結果、第2イントロンを境にして少なくとも2回の遺伝子変換が起きていることが判明し、これに基づきγグロビン遺伝子群における多型の形成機構に関するモデルを提出した。
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