無細胞転写反応およびDNA-タンパク結合実験を行い、アデノウイルス12型(Ad12)E1A遺伝子の転写制御機構に関して以下の知見が得られた。 1.E1A遺伝子の5'上流域には異なる核因子が結合する2つの領域が存在する。それぞれの領域に結合する因子は互いに他方の因子のDNAへの結合を阻害する。2.一方の結合領域(a領域)への因子の結合により、E1A遺伝子の2つの転写単位のうち一方のみが促進される。3.a領域への結合因子は、アデノウイルスゲノムDNAの複製因子であるNF-Iと同様のDNA結合活性を示す。さらに、HeLa細胞より精製したNF-Iはa領域結合因子の持つ転写促進活性を代用する。4.Ad12E1Aタンパクを産生する細胞の核抽出液中には、Ad12E1A遺伝子の転写促進活性、a領域への結合活性とも認められない。 以上の実験結果から、NF-I様因子がAd12E1A遺伝子の2つの転写単位のうちの一方のみを特異的に促進することが明らかとなった。従ってAd12ゲノムDNAの複製とE1A遺伝子転写の両反応がNF-Iにより制御されると考えられる。これは腫瘍原性の無いAd2やAd5には見られない制御機構である。また、Ad12E1Aタンパクの作用によりNF-IのDNA結合活性が失われることが示唆された。これらのことは、Ad12E1AタンパクがNF-Iを介してウイルスの増殖を制御するという可能性を与える。 今後は、実際にAd12E1AタンパクがNF-Iの活性を調節するかどうか、そしてNF-I活性の変動がウイルス増殖に影響を与えるかどうかを追求する必要がある。この研究を通して、アデノウイルスによるトランスフォーメーションおよび腫瘍形成機構解明のための新しい視点が提供されるものと期待される。
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