我々は光化学系I反応中心複合体を構成する低分子量サブユニットに着目し、それらの単離と構造解析を行ってきた。そして昨年度は、9KDaポリペプチドの全一次構造解析から、このポリペプチドは[4Fe-4S]クラスターを2個配位しうる鉄-イオウタンパク質であり、葉緑体ゲノムにコードされるfrx A遺伝子産物であることを明らかにした。9KDaのポリペプチドはセンターA、Bのアポタンパク質であると考えられる。今年度は、本タンパク質のキャラクタリゼーションをさらに進展させるために、native formでの単離を試み、又、光化学系Iにおける電子伝達機構を解明していくために、サブユニット間のトポロジーに関する解析を行うことにした。まずホウレンソウ葉緑体より調整した系I複合体をn-ブタノールで処理し、水相部をDEAE-Toyopearlカラムに通した後、褐色吸着物を300mM NAClを含むトリス緩衝液で溶出した。この画分には9kDaポリペプチドが存在しており、一連の操作は嫌気条件下で迅速に行うことが必要であった。本標品の吸収スペクトルは最近型フェレドキシンとよく似ていたが、鉄およびイオウ含量はそれぞれ4.1と3.2原子/モルであり、一次構造から予測される値の約半分であった。本標品が酸素に対し非常に不安定であるためと考えられる。またEPRスペクトルからは2種の成分の存在が確認できたものの、系I複合体内のセンターA、Bのシグナルと明確に対応付けることはできず、今後の課題として残された。次に、9kDaポリペプチド周辺のトポロジーについて検討した。ホウレンソウ・チラコイド膜のアルカリあるいはカオトロピックイオン処理、トリプシン消化、架橋実験等を組み合わせて、抗体を用いたWestern-blotting法により解析した。その結果、9、14、19kDaポリペプチドは、チラコイド膜上のストロマ側に存在する表在性タンパク質であり、互いに近接した位置に存在することが明らかとなった。
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