植物培養細胞における代謝全能性を研究するためのモデル系としてニンジン培養細胞におけるアントシアニン合成誘導系を用いた。この系においてはアントシアニン合成の誘導と抑制は2、4-Dにより制御されている。2、4-Dはフェニルアラニン、アンモニア・リアーゼ(PAL)およびカルコン・シンターゼ(CHS)の両酵素の核遺伝子からの転写レベルでアントシアニン合成系の発現を制御していることがわかっている。これら核遺伝子が2、4-Dによりどのような制御を受けているか調べるため、両酵素に対するcDNAを得た。CHSは2、4-Dによってのみ制御されるのに対し、PALは2、4-Dにより制御されているものの他に、希釈効果により誘導されるものがある。そこで、2、4-Dにより制御されているPALおよび希釈効果により誘導されるPAL各々に対するcDNAを得て、各々塩基配列を調べた。その結果、希釈効果により誘導されるPALの塩基配列は12クローンすべてが同一であり、同一の核遺伝子から転写されてきていることが示唆された。これに対し、2、4-Dによって制御されているPAL cDNAの塩基配列は、希釈効果により誘導されるPAL cDNAの塩基配列と全く異なっていた。しかも塩基配列を改定した20クローンのうち、9クローンと11クローンとが各々同一であった。このことから2、4-Dによって制御されているPAL核遺伝子は希釈効果によって誘導されてくるPAL核遺伝子とは全く異なっており、しかも、それが2種類あることが示唆された。このことは、植物細胞における代謝全能性の発現において、PAL遺伝子は、同一の酵素活性をもつにもかかわらず、希釈効果と2、4-Dによる制御という、異なったtriggerに対応して各々核遺伝子を持っていて、trigger特異的にこれら遺伝子が誘導されてくることがわかった。
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