昨年度は細胞選抜により確立したタバコ光独立栄養細胞を用い、その葉緑体の分化発達過程を解析すると共に、葉緑体および核遺伝子が培養により変異している可能性を解析した。その結果、光合成のみで生育している光独立栄養細胞といえどもその葉緑体の発達、機能発現は緑葉と異なった制御を受けていることが明らかになった。一方、光独立栄養細胞の葉緑体遺伝子を制御酵素により解析した結果、顕著な変異は認められず、また核遺伝子であるrDNAに関しても、質的な変化は認められなかった。従って、培養細胞における種々の遺伝子発現の違いは遺伝子レベルでの変化の影響と言うよりは転写、翻訳の段階での制御が関与していると考えた。 本年度は、これらの結果を補足確認すると共に、さらに培養細胞において特異的に発現しているタンパク質の同定を試みた。細胞粗抽出液を2次元ゲル電気泳動により分離した後、ポリビニリデンダイフルオライド膜に転写した。転写したタンパク質を色素で染色し識別した後、切り出し、直ちにエドマン分離を行い、N末端アミノ酸の決定を行った。その結果、培養細胞において特異的に発現しているタンパク質4個のうち3個についてN末端アミノ酸35-38残基を決定することができた。得られたアミノ酸配列を基にデータベースによるホモロジー検索を行ったところ、培養細胞において検出されたタンパク質はいずれもストレスタンパク質として知られているosmotinあるいはキチナーゼと高い相動性を有することが明らかとなった。光独立栄養細胞で認められたストレスタンパク質は光独立栄養細胞のみならず、他の未分化の培養細胞、あるいは再分化しつつある培養細胞においても検出されていたことにより、培養細胞は一般的にきわめて高いストレス条件下にあると判明した。今後、このストレス因子の解明を試みる。
|