1.シロイヌナズナの突然変異体の中から、花器の発生及び形態形成過程に種々の異常を示すものを多数分離して、変異過程の解析と遺伝解析をおこなった。これまでに、(1)花茎の先端に花芽が形成されないもの、(2)花のかわりに葉状の構造が生じるもの、(3)花の器官(がく片、花弁、おしべ、めしべ)の数が異常になるもの、(4)花の器官の形態が異常になるもの、(5)ある器官が、他の器官の形態を持つようになるもの、などが得られている。このうち、(5)のグループは、1つの器官が、他の器官に転換したもので、ホメオティック突然変異体と呼ばれる。上記の突然変異体は、遺伝解析の結果から、いずれも一個の劣性突然変異をもっていることがあきらかになった。これらの突然変異は、花器の器官発生過程の各段階に作用する遺伝子に生じたものと考えられる。ホメオティック突然変異を生じる遺伝子(ホメオティック遺伝子)は、5個同定された。これらの突然変異体のいくつかについては、論文にまとめ発表した。 2.突然変異を生じた遺伝子を単離し、その構造と発現機構を解析して分子レベにおける機能を調べるために、Tiプラスミドベクターを用いた遺伝子導入系の開発をおこなった。まず、このベクターを用いたシロイヌナズナ野生型のジェノミックライブラリー(1.2×10^5個の独立なクローンからなる。 挿入断片のサイズは平均35キロ塩基対)を作製した。ついで、このライブラリーをアグロバクテリアに移し、シロイヌナズナの葉、茎、根または種子に感染させた。これまでに、ライブラリーDNAのマーカー遺伝子が発現した(形質導入された)カルス及び幼植物を数株得た。現在、遺伝子導入過程と、トランスジェニック植物体の再生過程の効率を上げるための実験条件を検索している。
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