障害児のコミュニケーション行動に関する研究の一つとして、知能の高いチンパンジーを障害児のモデルとした実験的分析を試みている。チンパンジーの知覚・認知の諸特性はヒトとほとんど変わらず、言語的コミュニケーションの乏しい点で、耳や口の不自由な障害児にきわめて近い存在である。 今年度の研究の進捗状況は、現在までのところ以下の通りである。 1)コミュニケーション・ツールとしての携帯用会話盤の製作:小型インテリジェントスイッチ(サン電業社)を主体とした新構想のもとに、従来に類例のない携帯用会話盤の制作をしている。このスイッチは従来のライトスイッチの照光部(押しボタン部)に液晶表示モジュール(発光ダイオードのバックライト付き)が組み込まれている。表示部は640ドット(縦20、横32ドット)で構成えているので、漢字、数字、図形文字などをきわめて鮮明に表示できる。何よりも画期的なことは、それぞれの押しボタンが小さなビデオターミナルのように多様なシンボルを表示できることだ。タイプライターの様に位置とシンボルの関係が固定しない。同じ端末が、どんなシンボルでも、どんな位置にでも表示できる。従って、携帯用の多目的な会話盤として最上の物といえる現在、ホストコンピューターとの接続を含め、ソフトとハードの両面から試作が進められている。 2)チンパンジーの「言語」訓練。既存のキーボード(会話盤)を使って、チンパンジーに視覚性人工言語を教える試みが行われている。約80語を習得している雌のチンパンジー(アイ12才)に続いて、5〜8才の子供のチンパンジー4頭を対象として、言語習得の基礎的な訓練が行われている。
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