本研究は固相でクロモトロピズムを示す物質、特にホトクロミズム或はピエゾクロミズムを示す有機化合物についてその着色反応に影響を与える構造的因子を明かにすることを目的として行ったものである。当該年度には主としてテトラフェニルジヒドロトリアジン包接化合物の光着色反応に及ぼす結晶構造の影響、及びビスクマラニル類のピエゾクロミズムについて検討し以下に記すような結果を得た。 1.2、2、4、6-テトラフェニルジヒドロ-1、トリアジン(TPDT)は再結晶の溶媒により光着色を示したり示さなかったりする。即ちアルコールやアミン類は光に安定な包接化合物を、アセトンや環状エーテル類は光着色を示す包接化合物を与えるが、芳香族炭化水素はTPDTの結晶を与え、これも光着色を示す。いずれの結晶でもTPDTは2、3-ジヒドロ型をしており、ジヒドロトリアジン環の水素は3位の窒素に結合していることがわかった。X線結晶解析より光に安定な包接体は2種の水素結合により溶媒とTPDTが交互に長くリボン状に連なっており此の構造が光着色を抑制していること、光着色を示す包接体では1種類の水素結合により溶媒はTPDTと包接し、それらは互いに離れて存在している。 2.3、3-ビス(2-オキソ-3-アリールクマラニル)類はサーモクロミズム及びピエゾクロミズムを示し、いずれも二量体のラジカル解離によることを確かめた。加圧或はすりつぶしによる共有結合の開裂は興味ある反応であるが、ある圧力下での開裂は短時間に起こること、その程度は圧力の大きさによることがESRの測定から明かとなった。また熱解離及び圧力による解離に及ぼす構造の影響を知る為に置換基の種類とその置換位置の異る数種のビスクマラニル類について検討し、加圧の際には熱解離とは異った置換基効果を示す場合のあることを認めた。立体的に二量化を妨げる位置の置換基がよりピエゾクロミズムに影響するようである。
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