有機金属化合物の超励起状態(親分子のイオン化エネルギーより高いエネルギー状態)は極めて反応性に富み、基礎・応用の両面から重要であるにも拘らず、短寿命であることと、分解過程が複雑であめため、その研究は殆ど行なわれていない。本研究では新しく開発したパーフェクトロンを用い、次の二つの観点から超励起状態に関する光分解ダイナミクスを実験的に調べ新しい知見を得た。(1)分解経路の分類:可視/紫外領域のレーザーの周波数を帰引し、MRn型(n=4〜2)の有機金属化合物の励起状態からの分解過程を詳しく調べた。親分子イオンができてから分解が進むA過程、分解してから中心金属イオンを生ずるB過程、および超励起状態に一気に励起されてからフラグメントイオンに分裂するC過程の三つがあるが、これまでC過程によって生成されたと思われてきた各種ラジカルイオンが生成する波長域でも、実はB過程で生じた中心金属イオンM^+との準共鳴電荷交換反応で生じたものであることが明らかになった。これは各フラグメントイオンの質量分析、エネルギー分析、角度分布測定、および光電子分光等を総合的に行ってはじめて知ることができる。(2)分裂モードの分類:最も対称性の高いMR_4型有機金属化合物はTd-対称であるが、光を吸って励起状態あるいは親イオン状態になるとC_3v対称に変わり、その際エネルギーを放出する。開放されたエネルギーが超励起状態にどう寄与するかという新しい問題を提起した。最も対称性の低いMR_2型では分解のモードも明確に決められる。直線偏光レーザーの偏光面を回転させながらフラグメントイオンの生成角度依存性を調べる異方性因子βの測定により、2体分解する場合と3体分解する場合の実験条件を掌握した。βの測定からは励起状態の対称性や寿命がわかるので、MR_2型励起状態に関してはかなり詳細な知見が得られ、固体表面における超励起分子の特異性を調べる足がかりを得た。
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