アロマターゼは女性ホルモン生合成における重要な律速酵素で、従来から本酵素のチトクロームP-450としての同定には多くの議論があった。またアロマターゼ反応の酵素化学的ユニーク性及びその生理作用の重要性を考えるならば、この点を含めてタンパク質・核酸レベルでの詳細な検討が必要である。既にアロマターゼは当研究室で精製し、そのユニークな酵素化学的性質を明らかにした。また特異的抗体を用いてヒト胎盤cDNAライブラリーよりアロマターゼをコードする部分的cDNA断片も得ていたので、この部分をプローブとして、さらに完全長アロマターゼcDNAの単離を行った。単離されたcDNAは、全長3030bpでその中に1509bpのオープンリーディングフレームを持っていた。推定されるアミノ酸配列には予め精製酵素で決められていたN末端及びC末端アミノ酸配列を含んでおり、アロマターゼcDNAとしての同定が確認できた。またP-450ファミリーに共通してみられるヘム結合領域を始めとした、いくつかのコンセンサス配列を含んでおり、アロマターゼがチトクロームP-450の一種であることがアミノ酸配列の一次構造上から確かめられた。また今までに報告されているP-450ファミリーとホモロジー比較をしてみると、アロマターゼは実に9億年近く前から他のチトクロームP-450と分岐して、女性ホルモン生合成酵素として独自に進化していったと推定された。また部分的にホモロジーを持つP-450を見てみると、P-450scc及びP-450_<19α>.Lyacoがあり、これはC-C結合切断を含む反応機構上の類似性を反映しているのかもしれない。また得られたcDNAを分子プローブとしてヒト染色体DNAライブラリーをスクリーニングし、アロマターゼ遺伝子を単離した。得られたアロマターゼ遺伝子は全長40kbを越える長さを持ち、またエクソン・イントロンの遺伝子構成からみても、他のP-450遺伝子とはかなり異なっており、cDNAの推測が裏付けられた。
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