神経回路の形成と維持に果たす細胞骨格の役割を明らかにするために、軸索内輸送現象を利用して、軸索細胞骨格の特徴とその動態の解析を試みた。細胞体からの高分子供給過程である軸索内輸送には、250-400mm/日の速度をもつ速い輸送と、数mm/日の遅い輸送という二種類の過程が区別される。速い輸送が膜成分を運ぶのに対して、遅い輸送は細胞骨格蛋白を運ぶので、遅い輸送の内容を詳しく分析することにより、生体内における細胞骨格の動態を把握できる。実験系として、ラット座骨神経を用い、細胞体の存在する脊髄前角または後根神経節に[35S]メチオニンを注入して、標識された細胞骨格蛋白の移動を観察するとともに、その溶解性を調べた結果、以下の各点が明らかになった。 1)軸索チューブリンには、低温や微小管脱重合剤で可溶化されない軸索固有の安定重合型と、重合・脱重合平衡にあるダイナミック型の二つの状態が生化学的に区別される。遅い輸送にみられる二つの速度成分のうち、グループV(1mm/日)には安定重合型が、より速いグループ1V(3mm/日)にはダイナミック型が多い。 2)強力な微小管安定化剤であるタクソールを神経鞘内に局所的に注入すると、その部位で軸索内に大量の微小管が出現する。このような状況下でも速い輸送はほとんど影響されないのに対して、チューブリンの輸送は完全に阻害され、注入部位にチューブリンが蓄積する。このように、細胞骨格は重合体のまま輸送されるとするこれまでの『構造仮説』とは反対に、脱重合型であるチューブリン・ダイマーが微小管の輸送型であると結論される。微小管と並んで軸索細胞骨格の主要エレメントであるアクチンとニューロフィラメント(NF)蛋白についても同様に、局所的脱重合 脱重合型の輸送 再重合というサイクルを繰り返して輸送されると考えられる。
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