頚動脈小体は豊富な知覚神経支配を受ける末梢化学受容器である。その知覚神経にはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を含有する線維が多数存在し、その多くは舌咽神経節由来で1部は迷走神経節、そしてごく少数が上頚神経節を通過する脊髄神経節由来であることを先づ明らかにした。各神経を単独に切断すると1〜2日でそれらの由来に対応する量のCGRP線維の消失を見るが、術後1週以上になるとCGRP線維は正常時と同程度に回復する。舌咽あるいは迷走神経いづれかと上頚神経節とを共に切断すると、その回復は正常時を凌駕する。したがって頚動脈小体はCGRP含有知覚神経との結合度が非常に高く、その切断による減少は強力な再生により補われることが判明した。さらに上頚神経節支配はその再生を正常域に保つ作用をもつことが示唆された。次いで頚動脈小体とCGRP知覚神経との高度な結合適合性が異所性環境下でも発揮されるかを調べるために、CGRP知覚神経の豊富な支配を受けている前眼房に頚動脈小体を移植して経時的に支配再支配の過程を調べた。また頚動脈小体と組織学的および発生学的に非常にに近縁と考えられる副腎髄質およびCGRP知覚神経を含めた末梢神経支配標的として代表的な心房筋と精管平滑筋をも前眼房に移植して頚動脈小体と再神経支配を比較した。前眼房周囲のCGRPは三叉神経節由来で、いづれの移植片によっても異所性であるが、それらの神経再支配には著名な差が見出された。頚動脈小体はこのペプチド神経との結合適合性が最も高く、術後2週で既にCGRP神経の進入を見、4週では相当数存在する。ところが副臓髄質には術後8週になってもごく少数のCGRP線維とか見出されない。心房筋には術後4週である程度のCGRP線維が見出されるが、精管平滑筋には少数のみである。頚動脈小体とCGRP知覚神経との高度な結合選択性をもたらすであろう栄養因子の追求を今後の目標としたい。
|