ボツリヌス神経毒素中C_1とD型毒素にはADPリボシル化酵素活性が存在し、様々の臓器、細胞中にある分子量21Kの蛋白を特異的に修飾する。この細胞蛋白の細胞内情報伝達における機能とADPリボシル化反応の毒素作用における役割を解明するため本年度はこの蛋白の精製、同定を中心に研究を行い、以下に示す成果を得た。 1.ADPリボシル化基質活性を指標としてウシ副腎細胞上清より基質蛋白の精製を行った。精製は、硫安分画、DEAEセファロース、フェニールセファロース、TSKゲルによるゲル濾過、MonoQ FPLCの5段階で行い、精製倍率1800倍、2%の収率で精製蛋白を得た。精製蛋白はSDSゲル電気泳動で分子量22Kに単一バンドを示し、モル当り0.7モルまでADPリボシル化された。また、この精製に伴いGTP結合活性も同時に精製され、精製標品はモル当り05モル以上のGTP-γ-s結合活性を示した。このことより、ボツリヌス毒素のADPリボシル化酵素の細胞内基質蛋白が低分子量のGTP結合蛋白質の一つであることが明らかになり、Gbと命名された。また、ラット各組織におけるこの蛋白の分布を調べた結果、これが神経系に極めて高含量に存在することが明らかとなった。 2.この蛋白Gbの正体を明らかにするため、その部分アミノ酸配列の決定を行った。精製蛋白を各主蛋白分解酵素で切断、断片ペプチドをHPLCで単離後、そのアミノ酸配列を解析した。これらにより、総計105個のアミノ酸より成る8個の部分アミノ酸配列が得られた。コンピューター検索の結果、この配列はアメフラシ神経節より得られたrho遺伝子の推定アミノ酸配列と高い(88%)相同性を示すことが明らかとなった。このことより、Gbはこれまでその存在が予想されていたrho遺伝子の産物であることが明らかになった。
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