光学的なCa動態・張力の同時測定法の開発に従事し、極小血管条件(長5、巾1、厚0.1mm)において、10nM以下の微量Ca濃度変化を記録することに成功した(Fura-2法)。これを用いて次の2点を明らかにした。 〔I〕豚冠動脈血管条件においては、カフェイン感受性細胞内Ca貯蔵部とヒスタミン感受性Ca貯蔵部は全く別物であり、重複が見られなかった。ヒスタミンは、K脱分極において見られる張力変化/Ca濃度変化比をはるかに越える張力発生を引起こすことが明らかとなった。一般に、受容体刺激によって引起こされる張力発生は、Ca濃度変化から予測される張力発生(スキンされた筋標本の張力発生)を、はるかに越えるものであった。 〔II〕内皮細胞由来収縮物質エンドセリンの豚冠動脈平滑筋に対する影響を調べた。Caを含む溶液中でエンドセリンを投与すると、速やかな細胞質Ca濃度(Ca)iの増加に引続いて張力が発生した。この(Ca)i上昇張力は各々30秒、1分でピークに達し、エンドセリン除去後もその値を維持した。ピーク値は用量依存性であった。Caを含まない溶液中では、エンドセリンは(Ca)iと張力の一過性上昇を引起こした。すなわち。(Ca)iと張力は各々30秒、2〜4分でピークに達した後、徐々に低下し、3〜5分、8〜10分で刺激前値に戻った。さらに無Ca溶液中でカフェインを繰り返し投与する事によってカフェイン感受性の細胞内Ca貯蔵部を枯渇したのちにエンドセリンを投与すると、一過性の張力発生がみられたが、(Ca)iは上昇しなかった。このCaに非依存性の張力発生は5分でピークに達し、8〜10分で刺激前値に戻った。この張力発生はH_7投与により阻止された。これらの結果から、エンドセリンは、細胞外Caに依存する機序に加えて、カフェインに感受性のある貯蔵部からのCa放出により(Ca)iを上昇させることが明らかになった。さらにエンドセリンは、(Ca)i非依存性でC-キナーゼを介する張力発生機序を有することが示唆された。
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