我々はシナプスにおけるシグナル伝達の機構を明らかにするため、その超微形態、構成タンパク質、酵素反応につき研究してきた。最近はその努力をシナプス後肥厚部へ集中している。本年度は、タンパク質のリン酸化特にカルシウム、ジグリセリド依存性タンパク質クナーゼ(Cキナーゼ)がシナプス後肥厚部でどのような様態で存在するかという問題に焦点をあてた。 Cキナーゼはシナプス前形質膜とシナプス後肥厚部双方に存在した。シナプス前形質膜の内在性基質は分子量87K、60K、50K、20K、のタンパク質だが、シナプス後肥厚部ては20Kタンパク質しかなかった。シナプス前形質膜のCキナーゼは外部基質のヒストンIIIもリン酸化するがシナプス後肥厚部ではリン酸化をほとんどしなかった。シナプス前形質膜ではホルボールエステル処理後Ca^<2+>の存在せぬ条件で内在、外在両方の基質をリン酸化する活性が上昇したが、シナプス後肥厚部では上昇が観られなかった。シナプス前形質膜のこの活性上昇は低濃度のCa^<2+>で阻害された(IC_<50>=3×10^<-7>M)。なお20Kタンパク質のリン酸化はH-7(カルモジュリン阻害剤)で阻害されたのでカルシウム、カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼも作用しているらしい。 以上の結果から、シナプス前形質膜、シナプス後肥厚部とも膜あるいはその裏打ち構造に結合したCキナーゼ活性を含むが、その存在様式は後者の場合酵素活性に関しかなり制限されたかたちであることがわかった。
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