癌遺伝子産物の一つである蛋白質チロシンキナーゼの阻害在として見出したイソフラボンの1種であるゲニステインのイノシトールリン脂質代謝回転に対する作用を、蛋白質チロシンキナーゼ阻害作用との関連から検討した。ヒトカルシノーマA431細胞にEGFを作用させるとイノシトールリン脂質代謝回転は時間依存的に亢進されるが、^<32>Pのとりこみでみたこの亢進はゲニステインにより顕著に阻害された。また〔^3H〕アラキドン酸のとりこみでみたジアシルグリセロール量は、ゲニステインの存在により濃度依存的に少くとも亢進前の量まで減少した。また〔^3H〕イノシトールのとりこみでみたイノシトール三リン酸量もジアシルグリセロール同様ゲニステインにより濃度依存的に少くとも亢進前の量まで減少した。ゲニステインは上の実験で用いた濃度ではホスホリパーゼ活性、蛋白質キナーゼC活性には阻害作用を示さなかった。以上の事実は少くともA431細胞において、EGFレセプターへのEGFの結合により亢進したイノシトールリン脂質代謝回転が、そのレセプターの蛋白質チロシキナーゼ活性の阻害により減少することを、示唆している。 一方Swiss3T3細胞ではPDGF、バソプレシン、ボンベシンによる刺激でイノシトールリン脂質代謝回転が亢進するが、^<32>Pのとりこみでみた場合ゲニステインは特にボンベシンによる亢進を阻害した。この細胞についても特にボンベシンによる亢進に対するゲニステインの作用を、A431細胞同様〔^3H〕アラキドン酸、〔^3H〕イノシトールのとりこみにより時間経過を含め検討する予定である。
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