研究概要 |
3年間にわたる本研究において以下のことを行った。 1.交差相関法デ-タ集積装置の製作(第一年度:1988年度) (1)中性子スピンフリッパ-・チョッパ-システムの製作 (2)2時間現象タイムアナライザ-の製作 以上は本開発計画におけるハ-ドウエア部分である.これらを設計するに当っては,情報理論的なトリックに満ちた交差相関法の原理を実際のエレクトロニクスの回路に実現すること,及び,これに中性子分光法に応用するための要請を取り入れること,等に特別の注意と努力を払った. 2.交差相関法デ-タ解析用ソフトウエアの開発(第一年度:1988年度) これは,第1に,上記のデ-タ集積装置を,これを用いた実験を行う分光器付属のコンピュ-タからコントロ-ルするため,及び,第2に,得られた生デ-タに対して交差相関の処理を行って,最終的なデ-タとするために必要であった. 3.中性子散乱の実験及びこれの解析(第一年度:1988年度,第2年度:1989年度,第3年度:1990年度) 実験は,高エネルギ-物理学研究所(KEK)のPEN分光器において行った.中性子磁気非弾性散乱測定の標準物質として、ホイスラ-型合金Cu2MnAlの単結晶を用いて,それからの強磁性スピン波の測定を行った.第1年度においては,本研究の基本である中性子スピン偏極フリップ・チョッパ-法の実地による確認,及びこれを実現するためのスピンフリッパ-・チョッパ-システムの動作を確認するために,1測定周期当たり単発のパルス状スピン偏極変調を行って,これによるスピン波の測定を行った.その結果,予想どうりのスピン波散乱が観測され,これによって,本研究計画の成功のメドが得られた.第2年度に入ってから,第1年度において完成していた2次元タイムアナライザ-を用い,擬ランダム・シ-ケンスによるスピン偏極変調を用いた,本格的な交差相関法によるスピン波の測定を行った.得られた結果はすべて予想どうりであり,広い測定領域でのスピン波散乱を,一挙に観測することができた.これによって,本研究の目的が基本的に達成されたことが明らかになった.第2年度から第3年度にかけて,得られた結果を詳しく分析し,またシミュレ-ション計算等も行い,本研究において開発したあたらしい分光法の有効性,得失等について検討を行った.その結果,現時点では,得られる偏極中性子ビ-ムの強度が弱いため,本分光法は必ずしも有効ではないが,将来,現在の約10倍の偏極パルス中性子ビ-ムが得られれば,本分光法を用いて高いエネルギ-の磁気非弾性散乱を高い分解能で測定することが可能となることを明かにした. なお,本研究で開発した分光法は,偏極アナライザ-と組み合わせることによって,より有効となるものである.そのための予備的な研究として,磁化したホイスラ-合金Cu_2MnAlの単結晶を中性子偏極子として用いた偏極アナライザ-システムを製作した.
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