本研究では、近赤外フーリエ変換ラマン分光法が、可視ラマン分光法では測定できないけい光性物質のラマンスペクトルを得るのに有効であり、工業分析へ充分、応用できることを示した。 日本電子(株)製JIR-100フーリエ変換赤外分光光度計に以下に記す改修を行い、フーリエ変換ラマン分光光度計を製作した。(1)ラマン散乱の励起光としてCVI社製連続発振Nd:YAGレーザーYAGMAX C-92型の1064nm光(出力0.9W)を使用した。レーザーから放出される近赤外光を除くために干渉フィルターを用いた。(2)レイリー光を除去するために、Microcoatings社の長波長パスフィルターまたはゼロ分散型デュアルモノクロメーターを用いた。(3)ラマン光を干渉計に導くための光学系を取り付けた。(4)干渉計はJIR-100のものを用い、分光器内のタングステンランプによる迷光を除くために、可視光除去フィルター、タングステンランプのon/off回路、迷光防止隔壁を取り付けて、迷光を減少させた。(5)検出器としてNorth Coast社製Ge検知器EO-817L(NEP=1×10^<-15>W/√<Hz>)を使用した。以上の改修を行って製作した分光器を用いてラマンスペクトルの測定を行った。可視光励起ではけい光が強くラマンスペクトルが測定できない試料としてローダミン6G、SN比のよいスペクトルが得られない試料としてアントラセンの測定を行ったが、両試料ともに良質のラマンスペクトルが得られ、近赤外フーリエ変換ラマン分光法により、けい光性物質のスペクトルを測定できることがわかった。また、「現場の試料」として劣化したポリエチレンのスペクトルを測定することができ、工業分析への応用の可能性を示した。 以上、ラマン分光法の欠点である「けい光性物質のスペクトルを得ることができない」という点をかなり克服することができる実用的フーリエ変換ラマン分光光度計を製作することができた。
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