イネはいもち菌に罹病するとリポキシゲナ-ゼ活性が増加し、イネに存在する不飽和脂肪酸が酸化されて酸化型脂肪酸になる。酸化型脂肪酸は抗いもち菌活性をもつ。この一連の反応によってイネのいもち菌罹病の防御が行われることを我々は明らかにした。次の問題として、酸化型脂肪酸は、いもち菌に特異的に働くのか、あるいは他の病原菌に対しても一般的に抗菌作用を示すのかの疑問が挙げられる。この点に関する知見を得る目的で、イネのもう一つの病気として知られるごま葉枯病に対する酸化型不飽和脂肪酸の影響を調べた。その結果、酸化型脂肪酸はごま葉枯病に対しても活性があり、ごま葉枯菌の胞子発芽と発芽管伸長を強く抑制することがわかった。この事実は、酸化型不飽和脂肪酸が一般的に植物病原菌に対して抗菌作用をもつことを意味している。 酸化型脂肪酸の、各種植物病原菌に対する抗菌活性の普遍性を知る目的で、次にトマト青枯病に対する活性を調査中である。すなわち、いもち菌に罹病したイネのホモジネ-トを調製し、イネのホモジネ-トを用いてα-リノレイン酸を酸化し、酸化型脂肪酸を得る。酸化型α-リノレイン酸がトマト青枯病に対しても抗菌作用を有するか否かを調べる。この目的の為の酸化型不飽和脂肪酸を準備した。 我々は既に、単にイネのみならず、トマトにおいても罹病するとリポキシゲナ-ゼ活性が増加することを明らかにした。この事実は、上述の酸化型脂肪酸の、ごま葉枯病に対する活性の事実と併せ考えると、植物罹病におけるリポキシゲナ-ゼ活性と酸化型不飽和脂肪酸の関係とその役割りに普遍性があることを示しており、この普遍性を明らかにしたことが今年度の成果である。
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