科学研究費(試験研究2)の財政的援助のもとに、我々は過去2年間において以下のことを明らかにした。即ち、7種類の食用植物についておのおの固有の病原菌に感染させ、感染植物のリポキシゲナ-ゼ活性を調べた結果、感染とリポキシゲナ-ゼ活性の激増には普遍性があり、特にトマトにおいては強いリポキシゲナ-ゼ活性が認められた。 今年は、αーリノレイン酸を基質としてトマトから得た粗酵素液を用いて酸化様式を調べた。その結果、αーリノレイン酸の9位が選択的に酸化され、相当するパ-ヒドロ共役ジエン構造をもつ化合物(I)が代謝されることを見いだした。IをNaBH_4にて還元し、相当するアリルアルコ-ル(II)に変換した。粗酵素による酸化反応では、I以外に高酸化型脂肪酸(III)も代謝される。10種類の植物病原菌(イネばか苗病、イネごま葉枯れ病、キュウリたんそ病、ダイコンいおう病、リンゴ斑点落葉病、イネ白葉枯れ病、トマト輪紋病、トマト灰色かび病、トマト葉かび病、トマト青枯れ病の各病原菌)に対して、I、II、IIIの活性を調べた。その結果、Iは全ての菌に対して活性があった。また、IIはイネごま葉枯れ病菌に対して、またIIIはイネ白葉枯れ病菌とトマト葉かび病菌に対して強い活性を示した。IIIは少なくとも5種類以上の混合物であり、残念ながら、化合物の純化にはいたっていないがその中の一つはLTB4と類似の骨格をもつことが明らかであり、今後、活性本体の構造を明らかにする必要がある。イネの場合、高酸化型脂肪酸のなかにトリヒドロキシ脂肪酸(IV)が含まれている。IVはり病ジャガイモからも単離されており、り病植物の代謝物として普遍的な化合物と考えられる。このような観点からIVの一般的な合成ル-トの開発も行った。
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