従来用いられてきた冷熱輸送システムでは、冷媒の顕熱のみを利用しているため、大規模な建築物では大量の冷媒を輸送する必要があり、ポンプ動力が大きくなる欠点があった。そこで申請者は、潜熱蓄熱材をカプセル内に封入し、これを凝固させた状態で冷熱を必要とする場所まで気体搬送する新しい冷熱輸送システムを提案した。本システムでは冷媒の潜熱を利用するため、同一の冷熱量の輸送には格段に少量の冷媒を輸送すれば良く、必要とされるポンプ動力の減少が可能である。本研究では提案した新しい冷熱輸送システムの実用化可能性を探ると共に、このシステムの熱設計資料を得るために、試験用小形システムにおいて実際に小球カプセルを輸送して、その性能を実験的に検討した。実験は、圧力損失の計測(水平部、垂直部)、壁への熱損失の推定、および搬送空気への冷熱損失の測定の3つからなり、以下の結果が得られた。 (1)カプセルを搬送するためのポンプ動力、すなわち流路の圧力損失は、水平搬送に比べ垂直搬送の方が格段に大きい。しかし水平搬送時の圧力損失は搬送空気流速の増加にともなって増加するが、垂直搬送時のそれはカプセルの終端速度で決定される圧力損失でほぼ一定である。 (2)流路壁とカプセル間の熱損失はカプセルの水平搬送時に大きく、垂直搬送時には無視できる大きさである。これは垂直搬送時にはカプセルは主に流路中央部を移動し、流路壁との接触頻度が小さいためである。 (3)カプセルと搬送空気間の冷熱損失は、両者の相対速度の大きい垂直搬送時の方が水平搬送時より大きいが、実際の冷熱輸送システムでは搬送空気カプセル間の温度差は十分小さく、これらは問題とはならない。 以上の実験結果をもとに実際の冷熱輸送システムの性能を予測し、従来の冷媒直接輸送型のシステムとの比較を行った。その結果、要求冷熱量の大きな系では本システムが有利となることが示された。
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