提案した強靱オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄を歯車の構成材料に実用化するために、Ni(〜2.5%)、Mn(〜0.8%)含有低合金球状黒鉛鋳鉄を基礎材料とし、その実際での溶製・製造・熱処理条件を各種の機械的試験(静的引張試験、シャルピ-衝撃試験、静的・動的破壊靱性試験)によってほぼ確定することができた。この強靱オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄の疲労き裂伝播試験を設置した油圧サ-ボ式疲労試験機を用いて行った結果、従来のオ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄に比べて、下限界応力拡大係数範囲ΔK_<th>値が高く(約45%増)、パリス領域のき裂進展抵抗も著しく向上していることが明らかになった。これは、強靱オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄鋳鉄が優れた強靱性を有しているために、き裂の発生特性を表しているΔK_<th>が上昇し、また残留オ-ステナイトの応力誘起変態によるき裂生成エネルギ-の上昇およびそれに伴う破面粗さ誘起き裂閉口挙動が生じ、き裂進展速度が遅延されたためであると結論できた。さらに、この強靱オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄を構成材料に用いた実機歯車は、プラッキング試験(耐久試験)、騒音測定試験を行った結果、現行品(SCM材)に比べ、優れた耐久性(約25%増)と低騒音化(約13%減)が認められ、本鋳鉄を歯車に実用化できるとの確信が得られた。 また、機械的特性に及ぼすミクロ組織、特に炭化物等の変態析出組織の影響を明確にするため、TEM(透過型電子顕微鏡)によるミクロ組織観察を行った結果、オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄では、xー炭化物をはじめとする遷移炭化物が析出することを初めて明らかにすることに成功した。また従来よりオ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄での靱性の劣化はFe_3C等の炭化物の析出が原因とされてきたが、二次黒鉛の析出による影響が大きいという極めて重要な結果を得た。
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