研究課題
本研究は極地構造用鋼溶接部の破壊性能評価法の確立を目指すものであり、そのために本年度は、海洋構造物用鋼として実績のある50キロ級TMCP鋼を取上げ、その多層溶接部の冶金的組織・靱性と溶接施工条件や鋼材組成との関連、および、破壊靱性試験結果に基づく構造安全性の評価法などに重点を置いた検討を実施した。それによれば、多層溶接部の組織分布や靱性は後続溶接熱サイクルによる再加熱のされ方の影響を大きく受け、例えば同一投与入熱でもパス間温度を大きくとると、熱影響部(HAZ)は大きくなるものの焼戻し(450℃以上のテンパー)を受ける領域の寸法も大きくなって、その結果HAZ粗粒域(靱性劣化部)の大部分が焼戻され、HAZ靱性が全体的に向上することが明らかとなった。なおこれは、冶金的には粗粒HAZ中に含まれる脆化組織のMAがテンパーによって微細フェライトとセメンタイトに分解するためであることを示した。また、鋼材組成との関連からみると、良好なHAZ靱性の確保のためにはSi量やAl量の低減が有効であり、さらに母材組成をうまく調整して低AlーB化すると、脆化組織そのものを生じさせなくすることも可能であることが判明した。これらの知見は、HAZ靱性向上のための溶接施工のあり方、および、より信頼性の高い極地構造用鋼の開発へとつながるものであり、最近のTMCP手法も併用するとさらに高強度(降伏点500MPaクラス)の極地向厚板鋼も実現可能であることを示した。一方、CTOD試験などの破壊靱性試験結果は、構造全体の安全性評価に直接使うには問題が残るが、靱性試験片と実構造物との欠陥形態の相違、およびそれによる破壊力学パラメータの分布やき裂前縁に沿う組織分布の差異などを考慮すると、靱性試験結果から構造全体としての破壊確率を推定することができ、そのための基準となる評価モデルとそれに基づく評価手順を提示した。
すべて その他
すべて 文献書誌 (5件)