研究課題
最終年度にあたる本年度は、多層溶接熱影響部の破壊靱性評価のための試験片採取法、および、破壊限界値のばらつき特性に大きな役割を果たす熱影響部の靱性支配因子を明らかにすることを目的として、前者については板厚貫通切欠き型(Tタイプ)と表面切欠き型(Sタイプ)のHAZ切欠き試験片、後者については溶接入熱一定でパス間温度のみ変化させた二種類の溶接継手から採取したHAZ切欠き試験片を用いてCTOD試験を実施した。なお、母材は昨年度と同じ海洋構造物用50キロ級TMCP鋼板である。それによれば、へき開破壊に先立って延性き裂成長が生じるときには、試験片採取の仕方によっては測定された限界CTODのもつ意味が異なる場合のあることが判明した。なぜなら、Sタイプ試験片では、切欠き先端位置の制御が困難なことと、たとえ同一組織に切欠き先端が位置しても、延性き裂成長が起きると必ずしもその組織内でへき開破壊が生じるとは限らないためである。このため、HAZ靱性の下限的な値を得るには、低靱性なHAZ粗粒域を高い確率で切欠き前縁に含み、そのHAZ粗粒域自身の靱性を反映しやすいTタイプ試験片の方が適している。なお、Sタイプ試験片でTタイプのものよりかなり小さな限界CTODが出現することがあるが、これは両試験片の切欠き前縁に占めるHAZ粗粒域寸法の差によるもので、これについては最弱リンクモデルの適用が可能であることがわかった。また、切欠き前縁のHAZ粗粒域寸法が同一でも限界CTODにばらつきがみられるのは、粗粒HAZ内に含まれる劣化組織(MA組織)の残在量の影響によるためで、限界CTODの大きいものではMAの残存量が少ない傾向にある。この結果は、後続溶接パスによるテンパ-効果でMA組織を分解させるような溶接施工法を採ることが、TMCP鋼板の多層HAZ靱性向上のために有効であることを示唆している。
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