Pd膜に比べて安価でかつ低温低圧で操作可能であるLaNi_5をスパッタ法により、それ自身水素透過性のある高分子膜基板上に形成させた複合膜を用いて水素同位体分離を行った。透過試験は、ポリイミド膜(I)、その膜上にLaNi_5膜を形成させた膜(I/LaNi_5)、およびNi膜を形成させた膜(I/Ni)について行った。H:D=9:1の混合ガスを供給ガスとして用い、圧力1.5×10^5Pa、35.3〜42.3kの温度で膜を透過させた後、得られたガスの組成をガスクロマトグラフを用いて分析し、分離係数αを算出した。いずれの膜試料においても透過ガス中にHが濃縮されていることがわかった。I膜ではα=1.1であったが、1/LaNi_5膜およびI/Ni膜のαは1.9となり、著しい向上が見られた。このような高いαの値が得られたのは、金属に対するHとDの溶解度の差および金属中のHとDの拡散速度の差の両方の効果によるものであると考えられる。またLaNi_5膜の透過係数はNi膜のそれの約2倍の大きさを有することがわかった。以上のことから、分離係数は小さいが透過係数の大きい高分子膜上に、透過係数は小さいが分離係数の大きい金属膜を形成させることにより、両者の特長を兼ね備えた水素同位体分離膜を得ることができた。さらに、金属膜として水素吸蔵合金であるLaNi_5の薄膜を用いることにより透過速度を増大させることに成功した。I/LaNi_5膜をPd合金膜と比較すると、I/LaNi_5膜の長所は分離係数が1.9でありPd合金膜のうち最も良いものに匹敵すること、およびPdに比べて安価なLaNi_5を用いた上に金属層の厚さが約1/100と小さく低コスト化が可能であるということである。これに対し、短所は透過速度が小さいことであるが、これは高分子の加工性の良さを利用し中、糸状の高分子にLaNi_5膜を形成させた膜を作製し、ガス接触面積を増大させることにより、この短所を補うことが可能である。
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