研究概要 |
高原子価ルテニウム反応剤を電解系で循環させながら、種々のアルコールを酸化する反応を実用に移するための最適化の研究を行なった。まず、グルコースセトニドの酸化反応を詳細に検討した結果、pHを約10に保ち、四塩化炭素/第三ブチルアルコ-ル(9:1v/v)混合溶媒系で、電流密度を10~40mA/cm^2に保ち、反応温度を20~40℃に設定し、二酸化ルテニウムを20mol%共存させて電解すると、目的の対応するウロース体が収率約90%で生成した。δ-ラクトン体の副生は、0.2%程度まで抑制することができた。この反応は、ペプチド様レニン阻害物質(KRI1314)等の構成単位でその薬理活性に重要な役割を持つα-ヒドロキシ-β-アミノアルカン酸の光学活性体の合成法の鍵工程に応用し、標的分子の簡便な製取法を開発した。 つづいて、本ダブルレドックス系をハロヒドリン体の酸化に適用し、相当するα-ハロケトン体の実用的な製取法について検討した。1,3-ジクロロアセトンの合成法として、1,3ジクロロ-2-プロパノ-ルの酸化に四酸化ルテニウム/NaCl水系を用いる間接電解酸化法を適用した場合、小量のトリクロロアセトンが副生する。そこで、まずジクロロアセトンが選択的に生成する条件を詳細に検討した。電解酸化反応は、アルコール体に対し二酸化ルテニウムを2.4~4.8mol%用い、有機溶媒/飽和食塩水(8/12v/v)二相系で行なった。電解体件の最適化の結果、有機溶媒として酢酸エチルがよく、反応温度は0~5℃に保つこと、電解セルとして、隔膜分離型が優れていることを見いだした。この条件では、ジクロロアセトンとトリクロロアセトンの生成比は96/1となり、それら生成物の電流効率98%であった。この電解反応系の実用化の観点から、基質濃度を学上げ、濃度の影響を検討したところ、40wt%までは選択性の低下がほとんど起こらなかった。ルテニウム化合物の再使用実験でも、触媒の劣化は起こらないことが確認できた。他のハロヒドリン体の酸化にも、本反応を適用したところ、好結果が得られた。本法はTCNO等の有機電子材料の中間体として広い用途を有するシクロヘキサン-1,4-ジオンの合成に適用した。シクロヘキサン-1,4-ジオールを水層側のpHは約4、電流密度は23~30mA/cm^2、2相系の場合、四塩化炭素-飽和食塩水(1/2 v/v)の条件で間接電解酸化したところ、ジケトン体が收率94%、電流効率85%で生成した。 これらの実験室レベルで効率よく電解酸化ができる反応条件は反応スケールを拡大しても、これまでの結果が再現できるので、大規模スケールで行なうための基礎データとなり得ることを確認している。三年間にわたる試験研究の結果、レドックス性ルテニウム化合物を用いる電解循環システムによるアルコール酸化法に関し、実用化に向けての可能性を得た。
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