1βーメチルカルバペネム系抗生物質は、次世代抗生物質の最有力候補として大きな期待を集めている。本研究の主目的は、大量入手可能な光学活性体を出発物質に用いて、1βーメチルカルバペネム鍵中間体の実用的不斉合成法を開発することにある。本年度の研究成果は以下の通りである。 1.本研究者らはすでに入手容易な(R)ーβーヒドロキシ酪酸メチルからβーアセトキシーβーラクタム中間体の短工程合成ルートを開発しているが、今回、このアセトキシ中間体から1βーメチルカルバペネム鍵中間体を高立体選択的にえる合成法の開発に成功した。この合成法の特徴は、比較的入手容易なケトンから発生させたスズ(II)エノラート種を導入するプロピオン酸側鎖として用いている点にある。 2.(R)ーβーヒドロキシ酪酸メチルと(S)ーβーヒドロキシイソ酪酸メチル(ともに入手容易)を出発物質とする1βーメチルカルバペネム鍵中間体の新合成ルートの開発に成功した。この新合成ルートでは、重複不斉アルドール反応をキーステップとし、その重複立体区別によって高立体選択的にえられたアルドール生成物にNーC_4環化法を適用して、1βーメチルカルバペネム鍵中間体が立体純度良くえられる。 以上、本年度は上記2つの合成ルートの開発に成功し、特許申請を行ったが、いずれのルートも依然実用化には問題が残されている。来年度は、第三のルートの開発に着手する予定である。なお、この合成ルート開発に平行して、種々の1βーメチルカルバペネム誘導体を合成し、それらの抗菌活性試験を行っているが、これらの試験結果は現在発表準備中である。
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