分離場の母体として、アニオン性界面活性剤ーAOTを所定量溶解させたイソオクタンー塩化ナトリウム水溶液からなる二相分配系を用い、リゾチーム、キモトリプシン、リパーゼ、BSA等各種分子量・等電点の蛋白質の分配係数を測定し、分配特性のpHおよび塩濃度等各種操作条件依存性を定量化した。また動的光散乱法により逆相ミセル粒径分布を測定し、有機相内含水量の変化ならびに、上記各種蛋白質の可溶化に伴うミセルサイズの変化を検討した。ミセル粒径分布は対数正規分布で相関され、平均径と含水量との間には同心球殻モデルに基づく相関が成立しており、塩濃度の増加と共に平均径は減少し、ミセル総数は増加する。一方、蛋白質を可溶化してもミセル粒径分布は殆んど影響を受けず、また蛋白質の種類や濃度にも依存しない。したがって、蛋白質分子量が大きい程、立体的排除効果が増加し分配係数は減少する。また等電点、pIとpHとの差に基づく、蛋白質表面電荷ーミセル内電気二重層間静電的相互作用は、蛋白質径とミセル内水相半径の比に依存し、両者がほぼ等しい条件で最大となる。さらに、各種の側鎖を有するエーロゾル系界面活性剤を用いて、上と同様の測定を行なって、ミセル粒径分布と分離特性に及ぼす効果や、水相中への溶解に起因する活性剤の消失量等を比較検討した結果、蛋白質の可溶化・分離・精製の目的からは、AOTが最適であることが判明した。 最後に、多成分系混合液よりの酵素・蛋白質の分離・分画法として、上記立体的・静電的相互作用の差異による分配係数のpH、塩濃度依存性の違いを利用して、正抽出・逆抽出を組み合わせた3段階の分離スキームを提出した。一例として、高pH域で最も小さいリゾチームのみを抽出し、次いで低pH、低塩濃度でキモトリプシンのみをエセル相に可溶化させる方法によって、3成分系の分離も可能であることを示した。
|