走磁性細菌は菌体内に500〜1000〓のマグネタイト微粒子を常温・常圧下で合成することができる。また、そのまわりは有機薄膜で覆われていることから、金属の溶出もなく、分散性にも優れている。申請者らは白血球中のマクロファージや顆粒球に走磁性細菌を取り込ませて、リンパ球と磁気分離する新しい白血球の分離法を考案し、簡便に高純度のリンパ球、マクロファージ、顆粒球の獲得が可能であることを示した。そこで、本研究は走磁性細菌を利用した白血球磁気分離装置の開発を目的として、昭和63年度は走磁性細菌の大量培養および走磁性細菌からの磁気微粒子の分離、白血球分離装置作製のための条件検討などについて行った。走磁性細菌を鉄源として没食子酸鉄、窒素源として硝酸ナトリウム、炭素源としてコハク酸を含むMSGM培地で培養したところ、10^8cells/mlまで増殖し、純粋培養が可能であった。また、培地中の鉄イオンは細菌の生育とともに減少していることが確認された。このとき、菌体の約2.5wt%がマグネタイト磁気微粒子であることが示された。活性を維持しているマクロファージ、顆粒球は、ほとんど1時間以内に走磁性細菌の磁気微粒子を取り込み、磁気感受性となった。マクロファージ、顆粒球は磁気微粒子を取り込んだ後においても、その貧食能、遊走能、NBT還元能については高活性を維持していることが明らかになった。また、磁気微粒子を取り込んだ白血球は、外部から磁場をかけることで自由に誘導することが可能であった。330〜1300Gの範囲で磁場強度を変化させた場合、磁気感受性細胞の誘導速度は2.1μm/sから6.0μm/sに上昇した。今後は、磁気作用を利用した白血球分離装置の作製とその血球分離効率、安定性についての検討、磁気微粒子を取り込んだマクロファージ、顆粒球とその機能に対する磁場の影響、分離したリンパ球の治療への応用のための基礎研究について行う。
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