Aegilops kotschyiのS^v型細胞質とパンコムギの1系統SalmonのIBL-IRS転座染色体の相互作用によって高頻度に半数性処女生殖が誘発される。これを利用してパンコムギの半数体を多量に得ることができるが、これら半数体の染色体倍加個体は雄性不稔となり、この系を現在の形のまゝパンコムギの半数性育種に用いることができない。本研究は、この系を遺伝的に改変し、半数性育種に利用可能な系とすることを目的としている。それには下記の2方法をとっており、それぞれについての本年度の成果は以下のとおりである。 1.半数体誘発抑制遺伝子Spgのspg(非抑制型)への突然変異誘発:CSはSpg遺伝子とRfv1(S^v型細胞質に対する稔性回復遺伝子)とをもつ。突然変異原処理によりspg spg Rfv1Rfv1型の突然変異体を作出しようというのがこの方法の狙いである。まず、パンコムギ品種Chinese Spring(CSと略記)の種子を0.2〜0.6%のEMSで処理し、M1世代の約800個体を栽培し、個体別にM_2世代種子を採取した。次いで各M_1系統より1個体を選んで、S^V型細胞質をもつSalmon((S^v)ーSalmonと略記)と交雑した。同時に自殖も行い、M_3世代種子を採取した。母親に用いた(S^v)ーSalmonの個体数が少なかったこともあり、本年度は約160M_1系統しか交雑できなかった。残りのM_1系統を用いた交雑、及び本年度得たF_1雑種の稔性及び半数体誘発能の検定は次年度に行う。 2.既存のIBL-IRS転座染色体を用いてのRfv1-spg型染色体のスクリーニング:世界のいろいろの研究機関より収集した、IBL-IRS転座染色体をもつ34系統のパンコムギを(S^v)ーCS及び(S^v)-Salmonの両方に交雑し、68組合せ中、64組合せについてF_1種子を得た。現在これらF_1雑種を裁培中であり、これを用いて、次年度に雄性稔性及び半数体誘発能を明らかにするための検定交雑を行う。
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