研究概要 |
パンコムギの一系統Salmonに存在するIBーIR転座染色体と、Aegilops属に存在する半数体誘発細胞質の両方をもつパンコムギ系統では,正常種子から高頻度に半数体が得られるが,これらを染色体倍加しても雄性不稔系統しか得られない。そこで本研究では,半数体誘発細胞質としてAe.kotschyi及びAe.variabilisのS^v型細胞質を用い,その存在下で半数体誘発を抑制はしないが,正常な花粉稔性を回復できる遺伝子型,すなわち,Rfv1 spgを得るため,2つの研究を実施した。それぞれについて得られた成果の概要は以下のとおりである。 (1)EMS処理によるSpgからspgへの突然変異のスクリ-ニング:EMS処理(0.2〜0.6%)を行ったパンコムギ品種Chinese SpringのM_2世代の715系統の花粉を(S^v)ーSalmon^<注)>に交配し,各系統につき1個のF_1植物を選び,その自殖稔性を調査するとともに,次代における半数体の出現率を調べた。半数体出現率は最低0%,最高38%であったが,その頻度の高い母本はいずれも自殖稔性が25%以下であった。その結果,本研究で分析した715のM_2系統の中には,残念ながら,Rfv1遺伝子を保持しながらも,Spg遺伝子がspg遺伝子に変異したものを見出すことができなかった。 (2)既存の1Bー1R転座染色体保持品種におけるRfv1 spg遺伝子型のスクリ-ニング:1Bー1R転座染色体をもつことが知られている既存の26品種(または系統)を(S^v)ーChinese Spring^<注)>に2代にわたって交配し,B_1世代植物の自殖稔性を調査するとともに,次代における半数体出現頻度を調べた。ほとんどすべての品種は,そのB_1世代において高い稔性と低頻度の半数体分離を示すか,正反対に低い稔性と高い半数体頻度を示すかのいずれかであったが,CIMMYT育成のBW2555は高い稔性と高い半数体頻度を示した。この品種はRfv1 spg遺伝子型をもつと判断された。 注)Ae.kotschyiまたはAe.variabilisの細胞質を導入した系統
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