本邦の主要な氷核細菌の一種であるErwinia ananasを試料とした。まず、外膜成分を分画し、アルギン酸膜に固定化したものを氷核として利用し、生鮮食品(例として生卵白およびレモン果汁)の凍結濃縮を行った。タンパク質の変性不溶化やフレ-バ-の損失・劣化を殆ど伴うことなく、しかも過度の冷却エネルギ-を負荷することなく濃縮する本技術は、食品成分のみならず、不安定な生体成分・生体組織を高濃度で得るのにきわめて有効と考えられた。今後、工業規模で実施するための条件を検討していく予定である。 同時に、菌体外膜の代わりにその構成成分の1つであるタンパク質そのものを氷核として利用するための基礎研究を行った。先ず、既知の氷核遺伝子がコ-ドするタンパク質の主要モチ-フAGYGSTLTに相当するオリゴヌクレオチドを合成し、プロ-ブとした。E.ananasで作製した遺伝子ライブラリ-からこのプロ-ブでスクリ-ニングを行い、陽性クロ-ンを単離した。これは5159の塩基対から成り、1322のアミノ酸残基から構成されるタンパク質をコ-ドしていた。大腸菌YA28にこれを導入したところ氷核活性を発現したことからE.ananasの氷核遺伝子であると結論し、inaAと命名した。この遺伝子は大腸菌内で氷核タンパク質(130k)をinclusion bodyの形で大量に生産した。生産されたタンパク質は0.01μg/mlの濃度で水をほとんど過冷却させることなく凍結せしめた。今後、このタンパク質をアルギン酸膜に固定化し、溶出を防ぐとともに再利用を可能としつつ、有用物質・有用素材の凍結濃縮に適用すべく、準備を進めている。
|