わが国における遺跡出土木材の樹種同定をおこなった報告書467編を収集し、この中に記載されている木材および木製品の種種等の情報を製品群名、製品名、樹種名、件数、時代、遺跡所在地、遺跡名、文献番号順に整理した。これまでに同定された木質遺物は延べ55742点に達し、デ-タとしてのレコ-ド総数は11965であった。したがって、作成されたデ-タベ-スには約6万点近くの樹種同定結果が整理されており、必要に応じて製品名ごと、樹種ごと、時代ごと、あるいは遺跡ごとに検索が可能となった。また、一つの樹種、たとえばスギやヒノキがこれまでどのような用途に使用されていたかをリストアップすることにより遺跡出土木材の情報システム化の基礎が整った。また、無数にある製品名を26の製品群に分類したが、それでもなお用途の不明なものが相当数みられた。樹種と用途に関して明らかになった点は以下の通りである。建築柱材ではヒノキが主であるが、次いで、畿内ではコウヤマキ、静岡ではイヌマキが多かった。丸木船にはスギやクスノキのほかにカヤや二葉マツが目だった。農具にはほとんどカシが使われ、総数の9割に達した。櫛の用材としては明治時代以降の資料ではツゲが高級品として用いられたが、古代にはツゲよりもイスノキの利用例が多かった。下駄はスギやヒノキが用いられ、明治以降の資料にみられるホオノキの利用は比較的少なく、キリの下駄は1点も出土しなかった。曲げ物、挽物、盤、槽、蓋、鉢といった容器類には針葉樹ではスギやヒノキが、広葉樹ではケヤキ、クスノキ、サクラ、クワが頻繁に用いられた。木簡や祭祀具にはほとんどヒノキが用いられていたと言える。最後に木棺は畿内ではコウヤマキが圧倒的に多いが、関東方面ではコウヤマキはほとんど使われずヒノキが貴ばれていたようである。以上、代表的な製品についての出土傾向を記述したが、これも本研究の補助に負うところが大きい。
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