研究初年度たる昭和63年度において、次の3つの成果が得られた。第一に、眼球位置測定装置をイメージフレームメモリと連動させる装置のハードウェア整備、第二に、2デオキシグルコースオートラジオグラフィー法による脳代謝マッピング実験、第三に、視覚記憶課題を日本ザルに訓練し、記憶関連ニューロン活動を調べた。以下、これらの成果について詳述する。第一のハードウェア整備については、交付申請書の研究実施計画通り進捗した。コンピュータとしてはPC98XLを改造して使用している。現在、このハードウェア系を駆動するソフトウェアをC言語にて開発中である。第二の2デオキシグルコース法については、計画通り予備実験が完了し、その成果が雑誌論文として発表された(裏面の第一論文)。静止視覚刺激群と視運動性刺激群では、小脳片葉・下オリーブ核・橋背外側核・橋被蓋網様核等のいくつかの脳部位で脳代謝活動が有意に異なり、視運動性刺激群の代謝活動の方が高かった。動眼神経核・外転神経核では左右差が見られなかったが、単眼視運動性刺激群の左右の脳部位活動が、小脳片葉・下オリーブ核等で異っていることが見出された。このことから、脳代謝マッピング法は、活動の空間分布を明らかにするには威力を発揮するが、実験動物による個体差が大きく、この弱点を克服するには本研究による装置が必須であることが確認された。第三の視覚記憶ニューロン活動の解析については、視覚性遅延見本合せ(visual delayed matching-to-sample)課題を用いた実験が大きな成果をあげ、2編の論文が英誌Naturelに発表された。視覚刺激がoffになり、サルが或る図形のパターンをイメージしている時に活動するニューロンが側頭連合野に発見された。これらのニューロンの反応性は、見本刺激の大きさ・向きに依存しない。刺激の視野上の位置が反応にどんな影響を与えるか解析するには、本研究の装置を適用するのが最善と考えられ、現在当該応用法を検討中である。
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