本研究の成果は大きく二つに分かれる。第一は、視覚刺激装置を試作しニュ-ロン活動記録への応用によりその効果を示したことである。第二は、脳代謝マッピングへ応用したことである。1.視覚記憶研究において、本研究代表者はフラクタルアルゴリズムによる人工的図形を刺激図形とすることの有効性を見いだしているが、本研究ではFBX24(Texnai)のズ-ム・パン機能を用いて、視野の任意の場所に任意の大きさのフラクタル図形を提示することが可能となった。これによりサル側頭葉の図形記憶ニュ-ロンの反応が、見本図形を提示する視野内の位置・図形の大きさ・向きによらないことが示され、記憶ニュ-ロンがコ-ドするのが図形の物理的属性でなく、図形の形の概念に相当するものであることが判明した。海馬においては、提示された図形の位置に依存して異なった発火をするニュ-ロン群が発見され、海馬が場所の記憶に関与するとの仮設を支持する証拠を提出することができた。2.第二の脳代謝マッピングへの応用では、2デオキシグルコ-ス注入後視覚刺激によるニュ-ロン反応の空間分布をブドウ糖代謝率を指標としてオ-トラジオグラフィ-法により測定した。脳内でも特に小脳片葉、しかも刺激と対側の小脳片葉が同側よりに高いブドウ糖の取り込みを示した。対側小脳片葉における活性部位の空間分布を詳しく調べると、解剖学的に提唱されている小脳マイクロゾ-ンの大きさに一致するパッチ状のニュ-ロン集団の存在が同定された。3.本研究の開始後、東京大学医学部附属病院にポジトロン断層撮影装置(PET)が導入された。附属病院放射線科からの協力依頼により、本研究で開発したイメ-ジフレ-ムメモリによる視覚刺激装置を、PETシステムに導入する計画が進んでいる。上記の研究成果をさらに発展させ臨床応用することは重要な意義があるが、本報告書執筆時にはまだ稼働していない。将来の進展が期待される。
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