発がん性物質とヒトがん原遺伝子DNAとの反応を解析する方法を開発した。1)DNA試料は、制限酵素を用いてヒトがん原遺伝子のエクソン部分のDNA断片をとりだし、5′ー末端を^<32>P-ATPを用いてラベルし調整した。2)種々の化合物とDNAとを緩衝液中で反応させ、ゲル電気泳動を行い、オートラジオグラフィーを作成し、デンシトメトリースキャニングを行って反応性を定量化する方法を確立した。3)DNA損傷をもたらすメカニズムを解明するために、種々の化学物質が薬物代謝系、過酸化脂質ないしは過酸化水素の存在下で発生する有機ラジカル、OHラジカルおよび一重項酸素をESRで測定した。この方法により次のような結果が得られた。(1)動物実験で発がん性が疑われているブタジエンジオキシド、ジメチル硫酸、βープロピオラクトンなどの直接アルキル化剤がDNAと強く反応した。発がん性が疑われているアクリロニトリルはミクロゾームとNADPHで活性化した時のみDNAと強く反応した。(2)発がん性やプロモーター活性が知られている金属のうち、6価クロム、ニトリロ三酢酸鉄(III)キレートに加えてニッケル(II)やコバルト(II)が過酸化水素の存在のもとでOHラジカル、一重項酸素などの活性酸素を生成し、DNA鎖の切断と塩基の損傷をもたらすことを明らかにした。Maxam-Gilbert法を併用した結果、活性種により塩基損傷の特異性があることが判明した。(3)Amesテスト陰性の発がん物質ベンゼンやオルトフェニルフェノールの代謝物が銅(II)イオンの存在のもとでDNA損傷をもたらすことを明らかにした。このようにDNA分子レベルでの反応解析法は、細菌の系のみによる変異原性の検定法の欠点を補うことができる。これまでの研究により、発がん性とDNAとの反応性との間には定性的な相関関係が認められた。さらに研究を進めることによって、ある程度の発がん性の予知が可能となろう。
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